長いです。興味ない方読み飛ばし推奨
トラスティベルを終わらせてから、どうにも頭の中で「ショパン」という人物が消化不良を起こしていたので、図書館に行ってショパンの伝記を借りてみた。
ショパンの伝記は何冊もあるけど、↑のは祖国ポーランドの研究者が一次資料をベースに書いたものなので、(読み物としては少し退屈だけど)「伝記」としてはとても良い出来でした。
もし僕と同じく消化不良を起こしていた方、またその他の理由でフレデリック・ショパンに興味を持った方がいたら、LYE はとりあえずこの本を入門用としてオススメします。
さて、僕の消化不良の件。トラスティベルでのショパンは一貫して物静かな、口数の少ない紳士として描かれていました。また作中で取り扱われた「戦争」や「環境問題」などのテーマについても (ゲーム内のショパンが直接言及することはほとんどなかったものの)「なぜ人間はこうも愚かなのか」といったトーンの発言が多く見られました。
例えば、祖国に戻れない (祖国の独立を求める運動とそれに対するロシアの対応からショパンは人生の半分くらいをフランスで過ごしている) という状況があるにもかかわらず、きわめて中立的な視点で「戦争」を見ているのは不自然ではないか、また作中ではステレオタイプな紳士として描かれているが、そんな型にはまったような紳士的性格の人が大きく人をゆさぶる名曲を作るのは不自然ではないか、など。
ショパン研究者によって書かれたこの本では、ショパンという人物が「祖国がロシアから独立できるのであれば武力を用いることに反対はしない (当時の情勢からすれば一般的な考え方だが)」し、「愛らしく、非常に陽気で愛国心にあふれる一面を持つ一方で、非常に頑固で、シャイで、小心者のところもある、非常に人間味にあふれた人物」であったことが多くのエピソードとともにまとめられている。
このほかにも:
ショパンの作品に蔵された感情や情趣は、体験し、直接感じ取ることのほうが、それを名づけるよりもはるかにたやすい。彼自身、命名する必要を感じていなかった。もちろん多くの作品が、彼を襲ったもろもろの感情の影響のもとに生まれたのだとしても、言葉による具現化より、音楽表現それ自体のほうがそうした感情をよく表したのである。 [中略] 19世紀来ショパンの作品に貼りつけられてきたさまざまな非音楽的名称は、ショパンがつけたものではなく、したがってそれがどれほど似つかわしいかということとは別にして、すべてこれらは純正な名称ではないのである。
(楽譜の出版社が勝手に曲名をつけることに対してショパンは真剣に腹を立てたりしていた)
また物真似が得意で多くの友人を笑わせてきたこと、最終的には経済的に窮していたこと (息を引き取った場所の家賃の半分を知人に借りていた、実家からの仕送りを当てにしていた)など、その人の人間性を推し量る上で大きな意味を持つであろう事実がまとめられている。
個人的には「曲名づけが本人によるものでない点」とその「人間くささ」は、ショパンを語る上で割と大きな事項だと思う。そしてこれらがまったく無視されたトラスティベルのストーリー展開は好意的に見てもサブタイトルに「ショパンの夢」とつけるには無理があるのではないか (トラスティベルでは「革命」「雨だれ」などの曲名がゲーム内の章名として使用されていた)。
ビデオゲームという特性上若い人、特にショパンについて知らない層 (自分含) が多くプレイすることを考えると「ショパンは病弱で紳士的な博愛主義者」というイメージを与えかねないのはいただけないように思う。
以上!